21章 禁断の書

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小さな手の甲に口付けては切なく頬を寄せる。 それを繰り返すグレイの肌にサラッとした感触が伝わった。 「──…!…」 握り締めていた筈のその手はもうそこにはない。 朽ち果てて、ささやかな風にさえ扇がれて崩れ去っていく── 代わりに持ち主の居なくなった指輪がコロンと手の中に残っていた。 グレイは強く目を見開いた。 最期の口付けさえも叶わなかった── 膝にくたりと落ちた抜け殻の花嫁衣装を強く胸に抱き締めてグレイは顔を歪める。 「ルナっ…」 突然訪れた別れ。 手の中に転がる指輪と僅かに残ったルナの砂の欠片をグレイは握り締める。 これもいずれ、灰になり消えていく。 グレイは手にしたそれを開いて見つめ、瞳を震わせた。 「何故だっ…何故こんなに儚い──…っ…」 失う悲しみとはこんなにも残酷だったのか── グレイは初めて知ったその感情に声を荒げ両手で顔を抑える。 味わったことのない 絶望── そして虚無 戻ってくることのない愛しい少女── 「ルナ…っ…ルナっっ…」 何度も叫んだ声は震え、次第に弱々しい声音となって嗚咽に変わる。 指輪とルナの砂の欠片を強く握ったまま顔を覆う手を、悲痛に歪めたグレイの瞳から溢れる涙が濡らしていた──
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