21章 禁断の書

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・ 「ルナ…っ…」 ドレスに頬擦りし、握り締めていた指輪をグレイは震えながらもう一度見つめる。 ルナの砂の欠片だったそれはグレイの涙を吸い込みしっとりと濡れてそこに残っていた。 溢れる涙が落ちて音を立てる。 グレイの瞳から零れたそれは淡い乳白色の石に姿を変える。 あとから止めどなく溢れた石はしゃがんだグレイの膝元に転がると、行き場を失ったようにルナがいた場所に留まっていった。 もう遅い── 時間がなさ過ぎた── 揺れる椅子に腰掛けて、モーリスは感じたくなくとも送られてくる主人の嘆きに深く苦しいため息をゆっくり吐いた。 闇の主── 偉大な魔物。 その魔物から手に入れられる雫石── 魔物の流す涙、たった一粒。 ほんの一滴。 それだけでよかった── それだけで多大な力があった。 だがその一滴を手に入れることが容易ではなかった……。 失ったことを自覚しただけでは雫石は簡単に手に入らなかった。 失ったものが二度とは戻らない── その苦しみを味わってグレイは初めて悲しみで感情を震わせた。 止めどなく涙を溢れさせる主人の嘆きの感情が狂おしい程に主従であるモーリスに伝わってくる。 もっと早くその雫石があれば── それさえ早く手に入っていたならば…… でももう遅い… 遅すぎた…… モーリスは揺れる椅子の上で微かなため息を漏らし、ゆっくり目を伏せていた。
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