21章 禁断の書

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・ 「旦那様!──旦那様っ!!」 どれくらい振りだろうか?こんな大声で叫ぶのは── それは思い出せば調度、自分が死んだあの日の夜。 必死になって大声で娘の命を乞い助けを求めたあの日以来だ。 交換条件で闇の主の主従となり執事として長きに仕えた。 それからはずっと静かで、時が動いているのかさえもわからぬほどに穏やかな魔物としての“生”を過ごしてきた── 全てを失い、もうこんなに必死になること等ないと思っていたのに… モーリスはグレイを呼びながらもそんな自分が可笑しく思えた。 魔物になって長いと思っていたのにまだまだこんなにも人間臭い感情が残っていたのか… それもこれも人間でいる少女、ルナと近きに居たせいかも知れない。 ならば旦那様にも── モーリスは思いながら声を張り上げる。 グレイ自ら作り出した虚像の空間。 その階段を無意識にただ上り続けるグレイをモーリスは必死に呼び止めた。 “旦那様──…っ” 崩れ始めた邸と共に、グレイの作り上げた空間がねじ曲げられている。 そこにモーリスの声は届かない。 モーリスはその事にはっと気付くと今度はグレイに念を送っていた──
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