21章 禁断の書

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・ 邸の中で一番闇夜に近い屋根裏部屋に用意された柩へグレイはそっとルナを寝かせる。 開け放した天窓からは、何処からともなく射し込む月光が柩に入れられたルナの頬を照らしていた。 グレイは改めて崩れかけた邸の屋根裏に目を見張った。 これ程に朽ちるまで気がつかなかったか── 自分の中の何かを根こそぎ捕われたように無意識だった。 グレイはその何かが何であるのかわからない。 ただ、ルナを失った。 そのことが大きな引き金であるのは確かだった。 グレイは深い呼吸を静かに吐くと両手を大きく広げる。それに添うように黒い翼を広げ、月の光を全身に受けていた── 闇が一段と深まっていく 集まってきた光が邸を包み眩しい程に反射すると、朽ちかけていた邸は瞬く間に元の姿に戻っていった── 闇は深まったままだ。 グレイの集めた月光の力が静寂を呼び覚ます。 邸の周辺で狩りをしていたヴコの手下達は、急に姿を消し始めた虫けらの魔物に首を傾げていた。 結界の強まった邸にまた静けさが戻っている。 以前とは比べものにならない程強力な結界だ。 ルナから与えられた血により魔力はだいぶ増している。 それはグレイ自身が感じていたことだった。
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