21章 禁断の書

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・ グレイは元に戻った屋根裏部屋を見渡して柩に近づいた。 「………」 邸は元に戻った…… だが… 一番大事なものが…… ルナがもう二度とは戻って来ない── 「……ルナ…」 グレイはルナを見つめ頬をなぞる。 「ルナ……」 覗き込み、何も言わぬルナに小さく囁いた。 “三日──… 別れを惜しむなら三日で足りますでしょう…” 「ふ……」 思わずモーリスの言葉に笑いが漏れた。 「三日……」 皮肉に歪む唇が微かに震えている── 「三日で足りるとはなんだ……っ…花嫁になれば永遠の筈だっ…三日で何が足りるっ…」 驚く程に唇が震えて顔が歪む── 悲痛な声音を吐けど、ただ表情ばかりが苦し気に崩れるだけだ。グレイは柩の中のルナを抱き起こすと切なく眉を寄せて目を閉じた。 何度抱いたか知れない細い躰。 この華奢な躰はいずれ朽ちて崩れていく── 「…っ…どうしたらいい──……」 一体誰に問う── 「どうすれば戻ってくる…っ…」 耳にしたこともない弱々しく吐かれる闇の主の声── その悲しい問いに、誰一人とて答えるものは居なかった……
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