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俺は咄嗟に駆け寄り、スマホを拾う。
「あの、スマホ落としてますよ」
声を掛けてから気付いた。
「あ……」
ボルドーカラーのネクタイの刺繍は、白。
2年の、内部生……。
俺は、外部生だから、という拘りは無いし、出来るなら外部も内部も関係無く友達を増やしていけたらいいな、と思っている。
でも、相手もそうとは限らない。
…………いやいや、こっちがそれを気にしてちゃ仲良くなんてなれない!
「あの、大丈夫ですか?」
何だかボーッとしてたその人に、更に声を掛けると漸く俺を見た。
身長はそんなに高くないけど、スラッとして綺麗な人。
俺が言うのもあれだけど、この人も女顔だなぁ。
フレームレスの眼鏡が似合ってる……眼鏡美人。
「君は?僕に何か用ですか?」
チラリとネクタイを確認される。
あれ?聞こえて無かったのかな?
「えっと、このスマホ……先輩の、ですか?」
「……っ!……あぁ、……いや、そう……ですが…」
……急に泣きそうに顔を歪める先輩。
「どっか具合でも?」
千尋が追い付いて、先輩に尋ねる。
千尋のネクタイもチラリと確認してから、先輩は首を弱々しく横に振る。
「ありがとうございます。でも……もういらないんです……」
そっと俺の手からスマホを受け取る。
その手は微かにだけど震えていた。
「どうし」
「君達、外部の1年ですよね?」
どうして、と聞こうとした俺の言葉を遮るように先輩は言葉を続ける。
「知ってると思いますが、あまり無闇にこうやって声を掛けない方がいいですよ。対抗心剥き出しの内部生だったら、何言われるか分からないですから」
……何でそんなに寂しそうに言うんだろう。
「では、コレありがとうございました」
スマホを軽く掲げると、反対の手で俺の頭をポン、とする。
「優しい恋人ですね。大事にしてあげて下さい」
最後は千尋に向けて寂しそうに、笑った。
「そんなに恋人同士に見えんのかね?」
先輩の後ろ姿を見送りながら、千尋が呟く。
「さぁ?……でも、そういうの気になっちゃう時って、自分がそれで悩んでる時だよね……」
「……やっぱ亜朗もそう思う?」
「まぁね」
まぁ、さっき忠告されたし、あまり積極的に突っ込んでは行けないけど……。
無理して笑ってるのを見るのは………
痛いんだよ…………。
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