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*** それぞれの守りたいもの 1 ***
あれから数日。
俺はすっかり元通り。
湊斗は三つ子の分離不安障害に少なからずショックを受けていたけど、今では以前と変わらない態度で接してくれている。
学校自体は、入学2日目にして、思いっきり目立ってしまった俺は若干有名人らしい。
…………まぁ、だからといってほぼ何も変わらないんだけど。
強いて言えば外部生徒会のメンバーと仲良くなった位。
「今日さぁ、天気いいから購買で何か買って中庭でお昼食べない?」
「それいいな」
千尋が真っ先に賛成してくれる。
「そうと決まれば、購買行こ!」
釉が楽しそうに笑う。
………やっぱり笑っててくれてると、俺も嬉しいよ……。
あ……っ!
中庭へと歩いていると、ある人物が目に入った。
「ごめん、皆先に行ってて」
「亜朗っ!?」
「いーから、大丈夫」
慌てる葉を千尋が宥める。
千尋は俺が誰に気付いたのかを、気付いた。
俺は急いでその人物の元に駆け寄る。
……あ!……っと、その前に。
花壇の前に立っているその人の後ろで、ブレザーの下に着ていたパーカーのフードを目深に被る。
これで大丈夫でしょう!
「西園寺先輩っ♪」
声を掛けると、西園寺先輩は立っていた花壇の前で振り返り、俺に気付いてないのか、怪訝な顔をする。
俺はフードを少し上にあげ、顔が良く見えるようにして、「こんにちは!」と挨拶をした。
「あ、桜岡くんでしたか。こんにちは♪」
自分に声を掛けた人物が知ってる人だった事にホッとしたのか、あの綺麗な笑顔を向けてくれる。
…………うーん、やっぱり美人♪
「どうかしましたか?こんなトコ見られたら、僕は生徒会役員だから何とでも言えるけど、桜岡くんは何言われるか……」
「大丈夫です♪その為にフード被って来ましたから♪」
そう言って俺はまたフードを目深に被り直す。
……優しい人……、真っ先に口をついたのは俺の心配。
今日はネクタイもしてないから外部生だという事も、俺を知ってる人が通っても、顔さえ隠せば覗き込まれない限り、気付かれる事はない。
「西園寺先輩、お花、好きなんですか?」
やたらジーッと見詰めていたよね。
「いや、花が、というより、この花が、好きかな」
「これって……?」
俺は花に詳しくない。
この花も、見た事はあるけど、名前までは分からない。
んー、と首を捻る俺を見て、西園寺先輩はクスクス笑う。
そういう笑いもするんだ?
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