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「そうか、そんな捉え方もあるんだね。俺はどうしても屋台のおじさんが悪者に見えてしまってさ。意地でも多く取ろうと思うんだ。
でも、取ったやつは家に持って帰るだろ。そうすると金魚の死ぬ姿を俺が見ることになる。俺がどうしたって金魚すくいは心に咎めるんだ。案外、唯みたいに楽に構えてたほうがいいのかもなぁ」
そう言うと通は困ったように笑った。その寂しいような笑顔を変えて欲しくて彼の胸に顔を埋めた。幸せだった。彼の優しさに包まれてその時の私はとても満たされていた。
だけど、そんな時間は長くは続かない。世の常だと理解していても、いざ自分にそれが降りかかると弱いのが私だった。
彼の両親に挨拶に行ってすぐの頃。あまりにも急すぎた、きっと少しずつ彼自身も変化は感じていたのだろう。彼は医者にガンと診断された。残された時間などあってないようなもの、別れはすぐに訪れる。
病室には彼と、家族。親しかった友人とそして私。通はそこまで喋るほうじゃなかったからか最後に遺したのは笑顔だけだった。
通が居なくなって通の家族は忘れてくれていいと言ったけど結局一年も引きずってきた。
そんな折にあなたに出会った。それで気づいたの、彼のことをいつまでも考えていても仕方ないって。
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