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経験があるとよく分かる、えー唯ちゃんまたぁ? しょうがないなぁ。全員が台本を知り尽くした役者さん。過ごしやすい空気を作って、余計な事を黙ってるのは暗黙の了解。
打算と狡猾があの仮面の下で笑ってる。
見ていると、自分の席に戻ると思いきや私の方に歩いて来る。慌てて目を伏せた、気づかれてたかも……。彼は私の目の前に座った。
さっきまであんな事を考えていた手前、すごく気まずい。思わず下を向いてしまった。彼はふっと声を漏らして私に語りかけた。
「俺、この次で良い喫茶店知ってるんです。次で一緒に降りましょう」
ニコニコした顔で誘ってくる様子に思わず頷いてしまった。まぁ、いいか。まるっきり知らない訳でもないし、何より彼の正体を知りたかった。
駅に降りると外は土砂降りだった。取り敢えず父親に休む旨を伝えなくてはと電話をしておく。その間に彼は可笑しそうに私の方を見たり、ふっと雨を見つめたりしていた。見ているとパッと私の方を向いて手招きしてそのまま改札へ歩き出した。
「傘、あります?無いなら俺、傘持ってるので」
どうやら一緒に入っていけ、という事らしい。私も社会人の端くれ、いつもなら持ってくるんだけどな。油断というのはここでも私に牙をむくらしい。
「じゃあ、頼もうかな。お願いします」
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