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彼はニッコリと笑うと私を迎え入れた。計らずも彼の腕が肩に触れる。そこから彼の熱が、鼓動がまっすぐに伝わってくる。少しドキドキしてしまう。しばらくぼうっとしてしまったようだ、何か言ったのを聞き逃してしまった。
「ごめんなさい! 何か、言いました?」
慌てて聞き直す。振り返ってみると駅はもう見えない。考えている間にかなり進んでしまったらしい。そんな私に彼は答える。
「傘の中ってさ、独特だよね。それだけで外と切り離されてる感覚ある。見方を変えたら檻の中にいるみたいでさ。」
「悪趣味だなぁ。じゃあ私たちって、今は二人とも外から隔離された檻の中、ですか?」
目を細めて笑う彼の微笑みはまっすぐに私に向けられていた。
「さあここだよ。結構いい雰囲気なんだ。マスターもいい人だし」
彼が指差す先に喫茶店はあった。落ち着いた雰囲気の外観で趣味の良さが感じられる。駅から歩いて五分ほど経ったろうか、確かにとても近い。看板にはRound leaf・hollyとある。店名だろうか、少し変わっているなと思った。
中に入ると、外の雨音から切り替わるように、ゆったりとしたオーケストラが流れている。
彼はかなりの常連らしく、店主と軽く挨拶を交わすと慣れた様子で奥の窓側の席に座った。私も彼に続き向かいに座る。間のテーブルが意外なほど小さく、頑張って顔を突き出せば彼の鼻先に触れられそうだ。
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