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店主が注文を聞いて去った後、私たちの間にしばらくの沈黙が生まれた。彼はじっと音楽に耳を傾けているようだ。私はしっとりと雨を吸い、気持ち重くなった髪を後ろ手で結びながら外の雨を見ていた。
程なくして、店主が注文通りにコーヒーを淹れて持って来た。私は少し気になって店主に店名の由来を聞いてみた。
「あぁ、うちの店名かい? そんな大層な理由じゃあないよ。ラウンドリーフ・ホーリーっていうのはクロガネモチって木の別名でねぇ。私はこの木が好きなんだ。何よりこの木は『カネモチ』って語呂合わせで、縁起がいいんだよ。現金なことだが、そういう願掛けも込めてのRoundleaf・hollyなのさ」
そう言って店主は店のちょっとした庭の方を指差す。(。)こんもりと刈り込まれた樹形、その上に赤に濡れた実がちょこんと載っている。クロガネモチは庭の中心を占め、主役然としていた。
「今はあいにくの雨だが、あの赤い実がいいんだ。あそこによく鳥なんかが実を取りに来てなぁ。見ていて飽きないよ。手入れも楽で土に植えてるから水やりなんて必要ないし、鉢植えを枯らすような俺には非常にありがたい」
そう締めて、店主は仕事に戻った。どうやら彼も店主の話を聞いていたようだった。自然な動作で口を開きスッと呟く。
「俺もあの木好きなんだ。マスターとは違う意味でだけどね」
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