雲の先にあなたは

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ふっと言葉を切って静かにコーヒーを飲む彼。しばらくの沈黙、彼はなかなか話そうとしない。あれ? 本当にそれだけなの。美味しいコーヒーを世に伝えるべく、俺は貴女をここへ? 「興味があったんだ」 え? 思わず聞き返してしまう。ただ同じ電車に乗ってただけで? 疑問だらけの私をいたずらっぽい目で見つめながら彼は続けた。 「きっかけは……そう、カバンだったかなトートバッグ。ほら梨の絵が書いてあってローマ字で“青リンゴではありません”っていうプリントの。表皮のブツブツの質感も細かく再現されててさちょっと笑ったんだよね」 「それで君の顔を覚えた。その二、三日後かな、今度の君は俺の持ってる柄のTシャツを着てて。バンドの薩摩ポテト、それのオリジナルデザインを持ってる人なんて見かけないから。趣味が似てるのかなと思って」 彼の話で私もおぼろげながらその時のことを思い出してきた。そうだ、あの時は残暑厳しい夏の終わり。Tシャツの上に一枚羽織る程度の格好だった。彼に初めて会ったのはそのくらいの頃だったか。 「あぁ、そういえばそんな事も……。よく友達に言われてたなぁ、ユイって感性がズレてるねって。自分ではいいと思ってるんだけど」 カップに口をつけながら上目遣いに彼を見る。彼の言うとおり、このバンドの理解者はなかなか少ない。だからという訳ではないが、私はなんとなく彼に惹かれ始めていた。     
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