7人が本棚に入れています
本棚に追加
雲の先にあなたは
雨のよく降る日だった。彼は今日も私に笑いかけてくる。私は途端に恥ずかしくなったが彼の方へ微笑み返した。とても、紅潮していたと思う。
もう何日もこんな朝が続いている。一両編成で逃げ場のない電車の中で彼と、私。他の乗客もいる気がするけど正直、覚えてない。というかこっちの方が普通。彼の方が異常。毎朝乗ってる電車の中の同じメンツでさえ私は、私たちはしっかりと見えていない。それが日常だった、けど。
いつの間にかこの『挨拶』が日常の一部になってしまっていた。キッカケは何だったろうか。そう、確か彼が私の落とした荷物(父さんは時々無茶をさせる)を拾ってくれたのだった。その時に自己紹介をしたんだ。
「カモガワさん……ですか。よくこの時間乗ってますよね。この辺りですか?あ、俺は堂島です。堂島 智樹」
荷物に縫い付けられた刺繍を読んで尋ねたのだろう。父は年甲斐もなく自身の研究所に“カモガワカズキ研究所”と命名している。我が親ながら、毎度溜め息が出る。
「鴨川 唯っていいます。父の仕事の手伝いでよく使うんですよ。朝でも人がまばらで乗り心地が良いですしね」
「へぇ、手伝いで。あぁもう降りないと。また会いましょう」
最初のコメントを投稿しよう!