雲の先にあなたは

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雲の先にあなたは

雨のよく降る日だった。彼は今日も私に笑いかけてくる。私は途端に恥ずかしくなったが彼の方へ微笑み返した。とても、紅潮していたと思う。 もう何日もこんな朝が続いている。一両編成で逃げ場のない電車の中で彼と、私。他の乗客もいる気がするけど正直、覚えてない。というかこっちの方が普通。彼の方が異常。毎朝乗ってる電車の中の同じメンツでさえ私は、私たちはしっかりと見えていない。それが日常だった、けど。 いつの間にかこの『挨拶』が日常の一部になってしまっていた。キッカケは何だったろうか。そう、確か彼が私の落とした荷物(父さんは時々無茶をさせる)を拾ってくれたのだった。その時に自己紹介をしたんだ。 「カモガワさん……ですか。よくこの時間乗ってますよね。この辺りですか?あ、俺は堂島です。堂島 智樹」 荷物に縫い付けられた刺繍を読んで尋ねたのだろう。父は年甲斐もなく自身の研究所に“カモガワカズキ研究所”と命名している。我が親ながら、毎度溜め息が出る。 「鴨川 唯っていいます。父の仕事の手伝いでよく使うんですよ。朝でも人がまばらで乗り心地が良いですしね」 「へぇ、手伝いで。あぁもう降りないと。また会いましょう」     
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