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「克哉くんが、あんたと浮気したって奈津子に言ったんだから!ねっ?奈津子」
ギャンギャンとわめき散らす友人とやらの横で、奈津子は小さく頷いた。
同時に瞬きをしたらしく、奈津子の瞳から雫が落ちてしまった。それは線香花火のように儚く、しゅわっと地面に消えた。
あぁ、もったいない。
もっと見たかった。
そう思って私は落ちた雫の先の地面を見つめた。
「悪いと思うなら、最初から人の男を取るなんて卑怯な真似しなきゃいいのよっ」
その友人はまた畳み掛けるように私へと言葉を降らせた。
悪かったなんてこれっぽっちも思っていなかったが、雫を追って、俯いたようになった私の姿勢がそう思わせたらしい。
「あのさ、さっきからそれ。奈津子の言葉なの?」
私の口から言葉が漏れ出た。
「はぁ?奈津子の言葉に決まってんでしょ!」
「だって奈津子、さっきから喋ってないじゃん」
頷いた時のまま視線を地面に預けていた奈津子は、ゆっくりと顔をあげた。そのまま一歩私に近づいた奈津子がまた手を振り上げたので、私は咄嗟に顔をかばった。
「バカにしないでよ」
それは小さな、奈津子自身の声だった。
奈津子は振り上げた手を、何も傷めることなく下ろして、私をジッと見つめた。
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