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「よかったね」と笑う蒼に対して仄かな嫉妬心のカッターナイフを後ろ手に隠し持ったまま、もうそれで俺は左手を傷つけるような真似はしなくなった。
間もなく蒼が彼氏を作った。俺の友達だった。意趣返しのつもりだろうかと半ば俺は邪推したがしかしそうではないらしく「チカちゃんがどうしてるかわかるようにね」そう、このとき俺たちはやっとのことで二年生になっていた。
果たして俺は蒼を愛していたか、それとも当時の彼女を愛していたか。答えはイエスだ。どちらにおいてもイエスはイエスだ。蒼とはもうすでに体の骨ばったところまで理解するほどに愛し合っていたし、それを愛と信じて疑わなかった時点でまさしく揺るぎない愛であったことだろう。最も、蒼を愛していたというのは今になって断言できるのであって、実際に愛を囁き合ったことだとか「好き」「私も好き」だなんてやり取りは無かった。ただの一度も。
突然、手の中からするりと蒼が落ちていくのが分かった。ここら一帯のJKリフレが一斉検挙されたのだ。蒼は学校側から自宅謹慎を言い渡され、内緒のアルバイトは彼女の両親、クラスメートの知るところとなった。
夜。蒸し暑さに耐えきれず窓を開けようと身を起こしたとき、ちょうど携帯電話が光を放った。時刻は午前四時で、やっぱり発信先は蒼。
「チカちゃん、今どこいる?」蒼は続ける。「会いたい」
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