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 歯切れが悪くなっていることに気付いて、完全に蒼に気圧(けお)されていることに気付いて、自分の愛の薄っぺらさに気付いた。押されてすぐに「どうぞどうぞ」と道を譲るのは愛ではあっても愛情などではない。本気の恋愛に用いるべきではないのだ。 「嫌い! 嫌い嫌い嫌い嫌い!!」 「おっ、おい待てって」 「嘘! 大好き!! さよなら!!」  ブチュリと電話の切れる音は俺たちのその後そのものを断絶した。蒼は音もなく学校から姿を消した。  それから何人目かの彼女が入れ替わり立ち代わりできて、歳月が入れ代わり立ち代わり過ぎた。高校を卒業して初めての夏の日。テスト直前。村原兼親(むらはらかねちか)などとどこのどいつがこんな物騒な武士みたいな名前つけやがったのか文句を言ってやりたい気分で、短期留学のためのパスポートを受け取るため都会に出てきていた。長いパーマのかかった前髪から汗のしずくがひとつ、またひとつと地面にシミを作っている。けだるげに歩く人々。今日はやたらと警察官が多い。何事かと詰め寄る頭の禿げたおじいさんと警官の会話を盗み聞きしたところ、どうやら飲酒運転の車が逃走中らしくここいらを見張っているとのこと。     
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