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難儀なこった、手のひらを打ち交差点へと差し掛かる。あまりの暑さ加減にもはや顔を上げるのも面倒くさく感じたが、もしかしたらここに逃走車両がやってきて、パトカーがそれを囲むなんてドラマのワンシーンみたいな光景を拝めるかもしれぬと含み笑いしながら向かいに立つ蒼を見つけた。
蜃気楼だろうか。
でも、どう見ても蒼。髪の長さこそ変わったがやはりあのツインテールは蒼。前よりずっとやせ細った四肢も蒼。手首に立ちふさがる絆創膏も蒼。どこをとっても、視界一面の蒼。五感を支配する蒼。声、匂い、キスの味、肌のやわっこさ、どこをとっても蒼。
真っ黒い蒼の瞳が俺の視線とぶつかる。次第に理解する二人。モーセが海を渡るかのように真っ二つに割れた人々。
「あっ……蒼!!」
善意などではなく、また愛情とも取れぬどす黒い心の淵に、冷静さが腰掛けた。視界の右端に猛スピードで向かいの歩道目掛けて走って来る車を捉えた瞬間俺は駆けだした。死ぬな、死ぬな、死ぬな。お前の左手は生を実感するためのものだったろう。お前の右腕は俺との歴史を刻んだものだろう。いや、四肢ばかりでなく、心も。一度は俺が支配したその命も。なおのこと死ぬな。目の前で死んでくれるな。
絶対に助ける。
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