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そんな夏休みも終わり、前期単位取得数ゼロの俺が再起をかけて臨む後期試験。季節は打って変わって冬である。知らないメールアドレスからメールが届く。このご時世、みんなLINEだってのに、よりにもよってメールなんてと苦笑しつつ開いた内容に言葉を失った。蒼の母親が、渡したいものがあるから取りに来いと言うのだ。なぜ母親が、と疑問に思うことは不思議となかった。むしろ「ああ、やっぱりか」のほうが大きかった。だけれど、葬儀場で蒼の母親の、湿った手のひらが俺の左頬を打ち、罵声を浴びせられてから数年ぶりに我に返ってみるとなにもかも間違いであったことを悟る。渡したいものとは、遺書。丸くって可愛らしい文字を書いていた蒼が、ワードなんだかエクセルなんだかよく分からない文字で書き綴ったそれが俺の細胞を何度も何度も、カッターナイフで突き刺す。突き刺しては引き抜く。
「チカちゃんへ。
こんな手紙を出してごめんね。どうしても君に対しての怒りが治まらない。
なんで中途半端に私を助けたの? あのまま私、殺されてたらこうやって
自殺を選ぶことなく死ねたのに。
チカちゃんは私の全てだったよ。リストカットもメンヘラも受け止めてくれ
た。夜中に何度も電話出てくれたり、右腕に根性焼してくれたりね。それが
なおさら憎いの。憎くて憎くて仕方がないの。私の右腕は私の全てだった。
私を許容する唯一の私だった。
ねえ知ってる? 人には二つの死があるんだって。体の死と、魂の死。魂が
死んじゃわないように、体を殺したの。いや、右手が無くなった時点で既に
魂も体も、死に冒されていたのかもね。
ねえ、チカちゃん。私ずっと君を見てる。誰と付き合ったとか、何を食べた
とか、どこに行ったのか見てることにする。天国じゃない近くて遠いどこか
で見てるからね。でも、呪いだとかヤンデレだとか言うのやめてね。
きっと私、チカちゃんのこと愛していました。お元気で。
――支倉 蒼」
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