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 ばつが悪くなって黙りこくった俺に、夏子は畳みかける。あのね、私がもし蒼さんみたいに車に轢かれそうになったら村原くんは同じようにして私を助けてくれるでしょう? また右半身ボロッボロにしながら守ってくれるでしょう? だから、右腕はそのためにとっといてよ。私はほら、身軽じゃないし、運動神経も悪いし、村原くんが轢かれそうになっても助けてあげられない。呪いとか愛とか、村原くんの怖がってるそれが私にはよく分かんないけど、今がそのときなら私喜んで右腕の一本や二本くれてあげる。だってそれこそ、蒼さんが本当に村原くんにしてあげたかったことだと思う。私、蒼さんが村原くんをすきだった以上に、きっと村原くんのこと好きだよ。ここで蒼さんのために右腕を切断するなんて言っちゃう君が大嫌いだよ。綺麗ごとじゃないよ。後悔なんてしても遅いのよ。人の命だってそう。体も魂も等しく命で、とっても早くてとっても愛しい。蒼さんにとっ て村原くんは命そのものだったみたいに、私にとって村原くんは命。  もう、いいでしょ? そんな女のこと忘れて、私に全部助けさせてよ。私の命を懸けさせて。料理もするし千円玉だって飲むから、もし村原くんの右腕がなくなったとしたら私のをあげるから。  準備をすると言ったのに、夏子の胸をビッショリ濡らして気付けば朝になっていた。俺はどれだけ愚かなのだろう。蒼の存在理由は俺の妄執によって成り立っていたんだ、かつてのペンネーム「蒼斃?生」はもはや過去の人物である。過去は現在にはなれないけれど、死ぬ時があれば生きる時もある。好きになることもあるし嫌いになることだってある。夏子のEカップだっていつかは垂れ下がる。しかも、夏子だっていつ死ぬか分からないじゃないか。そのときになってすぐに他の人を愛してしまわぬよう、やっぱり右腕は残しておくことにするよ。おおかたそんなふうなことを口走ってしまったら、夏子はいつもと変わらぬ引き笑いで涙を一粒流した。ああ、それから。左腕のキズなんてとっくに消えているさ。
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