1 まるで恋だ

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綺麗な青をベースにして、同系色のたくさんの色が複雑に塗りたくられていて。 一見適当に塗りつぶしたようにも見えるそれは、当然だが作者には何らかの意図があるんだろう。 俺は絵画についてまるで知識がないのだけれど、何故かその絵は俺の心を激しく揺さぶった。 『無題 美術学科部1年 橘 星』 絵の下にはそう書かれていた。 あえて無題としたかは作者のみぞ知る。 しかしその題名が尚のこと、この絵は何を表現したのだろうかという疑問によって強い印象を与えることを助長させていたのは明らかだった。 「たちばな.....なんて読むのこれ。ほし? せい? キラキラネーム?」 隣で付き添いの恋人が不思議そうに呟く。 目指している大学は違うが、今日のオープンキャンパスに付いてきたのだ。 「読めないけど、キレイな絵を描く人だね。しかも1年って、すごいな」 俺の感嘆に彼女は興味無さそうに頷いた。 彼女も絵には詳しくないし、そもそも目指しているのは看護師なのだから当たり前だけれど。 この何とも形容しがたい気持ちを分かち合えなかったのには酷く落胆した。
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