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さておき、チラシには手書きでこう記されていた。
『古いレコードを聴きながらまったりと課題を片付けています。煩わしい人付き合いも特にございませんのでご安心を。学部、専攻問わず、お気軽に遊びに来てください。
代表 美術学部二年 彫刻専攻 岡山
活動場所 美術学部 新城研究室』
「音楽関係ないのかよ.....!」
思わず一人で突っ込みを入れて慌てて周囲を見渡す。
数人が不思議そうな表情をして通り過ぎて行った。
代表というのは先ほどの銀髪の男性のことを指しているのだろう。
(それ故チラシ配りをていたのだと推測する。)
もう一度ゆっくりとチラシの文章を黙読してみる。
古い『レコード』か。
デジタルミュージックが主流の現代には余り聞き慣れない単語だ。
いやしかし音楽通の若者の間でレコードブームが到来している、なんていうネット記事を以前に見た気がするな。
俺自体は当然CD世代だし、レコードなんて実物すら見たことなかったけれど。
古いレコードってことは割と過去の曲を聞いたりしてゆったりするサークル.....もとい同好会なのだろうか。
俺は父の影響でTHE BEATLESなどのド定番な昔の洋楽をよく聴いていたので、この文章には少し興味を唆られる。
そして代表者、活動場所が美術学部とあれば『橘 星』に会えるかもしれない。
「って、不純な動機だな.....」
再び震えた携帯電話で我に返る。
今度は親かもしれない。
兎に角今日は帰ろう。
それからこの盛りだくさんのサークルチラシを吟味して、いくつか見学に行ってみようかな。
折角の大学生活だ。
何のサークルにも入らずにバイトと授業だけでは味気ない。
俺は胸ポケットから携帯を取り出すと、母親からの連絡通知を示す画面を見つめながら歩き始めた。
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