悪魔の興味

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 女性の口を黒い手袋が覆う。  いきなり後ろから羽交い絞めにされ、月夜の光に怪しく光る包丁のような刃物が首に触れた瞬間、恐怖で何も出来なかった。動けなかった。 「来い!」という低い声が耳に聞こえた時、か細い声で震えながら「助けて」と命乞いをした。 「黙れ」と相手はその一言だけいうと、女を茂みの中へ連れ込んだ。その力は男性そのものである。  喉に触れる包丁が銀色に輝いた瞬間、目の前から右に動かされた。と同時に、首に激しい痛みが走る。血しぶきが舞う。その一瞬、自分の身体から手が離れたので、前に倒れこみながら相手の顔を見ようと目を大きく開いたが、月の光が邪魔して顔は見えない。それでも、救いの手は差し伸べられた。聞いた事のある着信音。その音を聴いた瞬間、相手は素に戻った。そして、震えながら彼女はその場を走り去った。  病院に駆けつけた沙和子は、夜間受付のインターホーンを鳴らした。 「はい?どちら様でしょうか?」と事務当直の職員の声が聞こえた。 「3階の馬場の家族です。至急の連絡を聞いてきました」と沙和子が伝えると、「あっ、はい!今すぐ行きます」といって、数秒後には当直の職員が顔を出した。     
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