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「おかえり」  仮想空間を出たダンザライトに声をかけたのは、小柄な男型のアイオノイドだった。今では珍しい、製造初期のモデル。幼い顔つきの彼は特別な存在である。このコロニーに住むアイオノイドの頂点、統括者だ。 「救済は完了したよ」 「肯」  この仮想空間に入る前と異なり、部屋は静かだった。部屋の一角でゴボゴボと音を立てて作動していた培養ポッドが動きを止めたからだ。透き通っていた培養液が黒く淀んでしまっている。 「消地球より発掘された人間たちは、すべて救済された」 「問。つまり彼が、最後だったのですか」 「そうだよ。そもそも発掘できた人間はほんのわずか。消失してはならないテクノロジーを持った人間だけだからね」  仮想空間で接していた老人は、重要なテクノロジーを持った人間だった。 「問。彼は死んでしまったのですか」 「らしくない質問だね」  統括者は笑った。 「生きているよ。たとえ肉体が朽ちてしまっても魂があればいい」  ポッドの中を揺蕩っていた魂――老人の脳は、淀んだ培養液に阻まれて見ることが出来なくなっていた。動作を止めたポッドの中で腐り、培養液に溶けているだろう。  この培養ポッドは何百年もの間動き続け、魂を守っていた。既に限界は超え、これ以上の維持は難しいと判断されていた。そこで、魂を永遠に守るために考えられたのが救済である。脳が保持する記憶を数値化して管理するのだ。  ここまでして。アイオノイドが人間を守る理由とは。ダンザライトは呟いた。 「肯。アイオノイドは創造主である人間に仕えるもの。主を守るのがアイオノイドの定め」 「そうだよ。アイオノイドは人間を守る。その人間が住処を失い滅んでしまったのなら――」  統括者はモニターの前に移動した。壁に備え付けられた大きな液晶には、青い惑星が映っている。 「アイオノイドは人間を復活させる」  この惑星は地球ではない。これは、遥か遠くにある地球に似た星。環境再構築中の新地球予定の惑星だ。
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