星を知る

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「ダンザライト、屈んでくれるか」  意図は理解できないが、主である人間が言うのだから逆らうことは出来ない。  ダンザライトが屈んだ後――布の音が聞こえ、視界は黒く染まった。  いや違う。一瞬だけ見えたのだ。ホルダーは濃紺のブランケットを掴んでいた。ダンザライトの頭部から、柔らかい布の感触と重みが伝わってくる。あのブランケットを頭からすっぽり被せたのだろう。 「問。なぜこのような事を」 「夜空を教えるためには視界を暗くする必要があるが、アイオノイドは暗闇の中で瞳を開けることをしないからね」  ホルダーの言う通り、アイオノイドは暗闇を知らない。暗闇を見る必要があるのなら暗視モードへと切り替えてしまう。今だって、夜空を知るために必要な行動だと言われなければ、暗視モードに切り替えていただろう。  ダンザライトは濃紺のブランケットの中で暗闇を見る。経験したことのない、狭苦しさがそこにあった。 「今から私が言うものを思い浮かべていくんだ」 「肯。かしこまりました」 「今は何が見える?」 「答。暗くて何も見えません」  光を遮った黒い世界。何も見えないことが不安を煽り、ひとりぼっちになった錯覚を生む。ホルダーの精神状態を確認するセンサーがなければ、ホルダーが消えてしまったと判断していたかもしれない。 「そこはしんと冷えた場所だ。誰もいない。暗闇に支配された世界」 「肯。ここは冷えた場所で、暗闇に支配されています」 「孤独に蝕まれ、心がざわざわとする。この真っ暗な場所に他人の気配はなく、ひとりぼっち。とても寂しいんだ。これが夜だよ」  夜は心細く、何かに捕まっていなければ呑まれそうになる。満たされない虚しさが、「肯」と答えたダンザライトの体をぶるりと震わせた。 「夜の闇は怖いだろう」 「肯。この状態を怖いと判断します」 「よく見てごらん。手を伸ばしても届かない遥か遠くで、ぼんやりと青白い光を放つ宝石がある」 「問。宝石、ですか」 「きらきらと光る美しい宝石だ。だが遠すぎて、小さな粒にしか見えないだろう」  ダンザライトの暗闇に、ぽつり、光の粒が浮かぶ。  その青白い光は黒の世界に目立つ。近くにあるのではないかと錯覚してしまう、眩しい光を放っていた。  それは孤独感を薄めていく。光があるだけでこんなにも気持ちが落ち着くのかと、不思議な感覚に酔った。
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