34人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「ダンザライト、屈んでくれるか」
意図は理解できないが、主である人間が言うのだから逆らうことは出来ない。
ダンザライトが屈んだ後――布の音が聞こえ、視界は黒く染まった。
いや違う。一瞬だけ見えたのだ。ホルダーは濃紺のブランケットを掴んでいた。ダンザライトの頭部から、柔らかい布の感触と重みが伝わってくる。あのブランケットを頭からすっぽり被せたのだろう。
「問。なぜこのような事を」
「夜空を教えるためには視界を暗くする必要があるが、アイオノイドは暗闇の中で瞳を開けることをしないからね」
ホルダーの言う通り、アイオノイドは暗闇を知らない。暗闇を見る必要があるのなら暗視モードへと切り替えてしまう。今だって、夜空を知るために必要な行動だと言われなければ、暗視モードに切り替えていただろう。
ダンザライトは濃紺のブランケットの中で暗闇を見る。経験したことのない、狭苦しさがそこにあった。
「今から私が言うものを思い浮かべていくんだ」
「肯。かしこまりました」
「今は何が見える?」
「答。暗くて何も見えません」
光を遮った黒い世界。何も見えないことが不安を煽り、ひとりぼっちになった錯覚を生む。ホルダーの精神状態を確認するセンサーがなければ、ホルダーが消えてしまったと判断していたかもしれない。
「そこはしんと冷えた場所だ。誰もいない。暗闇に支配された世界」
「肯。ここは冷えた場所で、暗闇に支配されています」
「孤独に蝕まれ、心がざわざわとする。この真っ暗な場所に他人の気配はなく、ひとりぼっち。とても寂しいんだ。これが夜だよ」
夜は心細く、何かに捕まっていなければ呑まれそうになる。満たされない虚しさが、「肯」と答えたダンザライトの体をぶるりと震わせた。
「夜の闇は怖いだろう」
「肯。この状態を怖いと判断します」
「よく見てごらん。手を伸ばしても届かない遥か遠くで、ぼんやりと青白い光を放つ宝石がある」
「問。宝石、ですか」
「きらきらと光る美しい宝石だ。だが遠すぎて、小さな粒にしか見えないだろう」
ダンザライトの暗闇に、ぽつり、光の粒が浮かぶ。
その青白い光は黒の世界に目立つ。近くにあるのではないかと錯覚してしまう、眩しい光を放っていた。
それは孤独感を薄めていく。光があるだけでこんなにも気持ちが落ち着くのかと、不思議な感覚に酔った。
最初のコメントを投稿しよう!