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星を知る
「時間がきたのか」
海に視線を戻したホルダーは、瞳を細めてそう言った。震える指が示したのは、時間が止まった海の端だった。
そこは、削り取られたように白く欠けている。鮮やかに描かれた空間だからこそ、真白に塗りつぶされたその場所は異質でしかない。
「肯。仮想空間の欠損を確認」
欠損はホルダーの時間が残りわずかなことを意味している。外の世界で行っている作業が、この思い出を吸い取ったのだ。
「問。願いはありませんか。わたしに出来る範囲のことで叶えます」
「ない。肉体と共に欲は消えてしまったんだ」
ホルダーの答えは素っ気ないものだった。想定していた答えだったが、突きつけられると寂しい。
「逆に聞くよ。ダンザライト、君の願い事は?」
「わたし、ですか」
ホルダーは頷いた。
アイオノイドは欲を持っていない。人間に近づけるため、三大欲求は設定されているが、それは計算された行動である。欲があるように見せて、人間を喜ばせるのだ。欲に動かされて行動しているのではなく、人間のために欲があるように見せているだけ。
「……答」
考えた。ホルダーを喜ばせる願いを。
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