呪涙~嘘泣きと号泣のはざまで~

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こんな辛い悲しみをこれからの人生でもう二度と味わいたくはなかった。それが天寿を全うした死であれ、病死であれ、不慮の事故死であれ。 俺は女性に答えた。 「もう・・・こんな風に心をぐちゃぐちゃに掻き乱される様な悲しみを味わいたくはありません・・・」 すると女性はクスリと笑って言った。 「私はね、困っている人間を見捨てておけない質なの。普通の俗物魔女は金貨やダイヤモンドの様な対価を所望するけれど私は違う。その悲しみ味わえない様にしてあげましょうか?但し、あなた自身にとっての対価は仕方がないけれどね」 魔女だと?この服装はコスプレではなく本物だとでも言うのか?俺は一瞬女性の発言を疑ったが特に失うものもない様に思い信じてみる事にした。俺自身の対価と言う言葉は気になったものの、たいした事ではないだろうと高を括り、その女性の発言に乗る事にした。 「本当にそれが叶うなら・・・そうして頂きたいものです」 女性はその手を俺の頭に当て、突然、俺がファンタジー小説の中でしか読んだ事のない様な呪文を詠唱し始めたのだった。 『Somnum sempiternum et erunt quasi torrens dolorem populi: non decurrunt, et in fletuetin tenebris. Et cum homo est adhuc conatur aperire ostium in tenebris, et non est reversus per corpus suo tristi cum fletu』 【涙の中に尽きせぬ人の悲しみの奔流を深き闇の中に永久に眠らせ給え。そして人がふたたびその闇の扉を開こうとする時、己の身を持って涙の中に悲しみを還さん事を】 すると女性の手に黒々とした不定形の物質が生まれ、その形が、目をルビーの様に真っ赤に輝かせる蛇の形に変貌したかと思うとその蛇は俺の体に巻き付き・・・スッ・・・と煙でも消えて行くかの様に俺の体の中へと吸い込まれて行ったのであった。 俺は叫んだ。 「いっ、今のは何だ!一体何が起こった!?」
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