呪涙~嘘泣きと号泣のはざまで~

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そして俺が出した結論が・・・・それは無理かも知れないと言う事だった。 俺は七海が大好きだった。そして七海がもしも俺より先に死んだ場合、好きだからこそ、嘘泣きでは済まされない事も分かっていた。 俺は17歳の時、親友が事故で亡くなり、あの時以来、心の底から悲しみ、号泣した事は一度もなかった。祖母・祖父・親父の死。俺は彼らを愛していたが、本当に悲しむ前に、嘘泣きで誤魔化した。そう、俺は魔女の呪いで死にたくなかったからだ。 だが、七海は訳が違った。俺は自分の心を欺く自信が・・・・なかった。 しかし・・・俺は今、32歳になった七海の顔を見詰めながら心が揺れていた。俺が本当の意味で恋をした最後の女性、七海。 もしもだ。ここで俺から告白をし、七海とお付き合いを開始したとする。しかし・・・七海の命は後半年しか持たないのだ。 そして・・・七海が亡くなった時。 それは同時に俺の死を意味するはずだ。忌まわしき魔女の呪いの発動を忌避する事は叶わないだろう・・・。 俺は今一度七海の顔を良く見詰めた。 綺麗な七海。 でも・・・この女性の命は後・・・半年しか持たない。 不思議と・・・・俺の心から迷いが消えていた。そして思った。 俺の命を捧げてまでも・・・この女性を愛してみたいと。 俺は七海のほっそりとした手をそっと握り締めて言った。 「七海、俺と付き合って貰えないだろうか」 七海が俺に抱き着いた。 俺は席から立ちあがり、泣きじゃくる七海を優しく抱き締めたのであった。
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