清流と泥水

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 吹奏楽におけるトロンボーンパートなんて、つまらない演奏ばっか! トロンボーンで演奏した「トランペット吹きの休日」が好きだ、リンドバーグの鳥肌が立つ演奏が好きだ、長いスライドを駆使した滑らかなグロッサンドが好きだ! でもそんなの、吹奏楽じゃ何一つやらせてくれない!  吹奏楽コンクールでやるような曲は木管やトランペット、たまにホルンが美味しいところをもっていく! トロンボーンは? やれ和音だ、裏拍だ、全然楽しくない! 裏方にしてもつまらない音ばかり。それなのに「キレイナオト」を鳴らせと言う! こんなのトロンボーンじゃなくてもいい、他の楽器でもできるじゃないか!  ストレスだ。吹奏楽のトロンボーンなんてストレスだ。 「先生! 私は……私は、こんな演奏のためにトロンボーンを選んだわけじゃない!」  ある日、耐えきれずに爆発したことがある。私は端から見れば協調性のない人間だと見えたのだろう。吹奏楽に未練などない。私はただ、トロンボーンが好きなだけ。学校でトロンボーンを吹けるのは吹奏楽だけだからいるだけ。でも、本意でない演奏を我慢できるほど、私は大人じゃなかった。 「そう。じゃあ辞めなさい。ここはあなたの我がままを通すための場所じゃない」  殴れば良かったんだろうか。怒れば良かったんだろうか。それとも大人しくしているべきだったんだろうか。  いずれにせよ、その言葉で私は「さめた」。     
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