清流と泥水

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 最後のコンクールもあるというのに、私はかつてないほど無気力だった。 「君の音からは意志を感じない」  そう言われたのはコンクール一ヶ月前だった。高い金を払って、高名なインストラクターを呼びパートごとにレッスンを受けていたときのこと。  最近の私の音はキレイだと言われることが多く、内部から否定されたことはなかった。だから部活で求められている「キレイナオト」に、もうこれでいいのだといつもどおり五割の力で演奏した。  そうしたらこの始末だ。 「君の音は確かにキレイだ。高音も苦しそうじゃないし、音程も正確だよ。でも、力がない。ただキレイなだけで、こうありたいと言う意志を感じない」  トロンボーンが好きだ。ラッパから鳴るどの楽器にも負けない華やかな音、バスにも引けをとらない低音、複数合わさったときの層の厚み。そんな音が出せるトロンボーンが、私は好きだったーー 「まるで作り物だ。機械が音を鳴らしているみたい。せっかく君が演奏するんだから、もっと熱を込めていいんじゃないかな」  ふざけんな。  ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!     
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