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誰のせいでこうなったと思ってる! 誰がこいつを呼んだと思ってる!! 私が、私があんなに出したかった音を殺して、機械みたいなキレイナオトを求めたどいつが!!
つかみかかっていた。そのインストラクターのせいじゃないのに。私は狂ったように泣き叫んでいた。
キレイナオトを求めたのは先生だ。トロンボーンの音を殺して正確で平べったい音を要求したのは先生だ。部活は生きた音なんて求めていない、求められているのはただただ正確なことだけ。
そう言われて己を殺してきたのに、あなたは何をほざくのかと。
理不尽な怒りだ。それでもインストラクターは、落ち着いた声で問う。
「君は、どんな音を出したい?」
深呼吸。ぼろぼろ涙がこぼれていく。しゃくりあげてうまく言葉が続かない。それでも私はーーキレイナオトを鳴らしたあの日から堪えていた思いを、吐いていた。
「……綺麗な音を、だしたい」
それはキレイナオトじゃない。
「泥水をすするみたいに、死に物狂いであがいて、もがいて、苦しんで……そうやって努力した先に鳴らせる、綺麗な音を出したい」
「……うん。君にはその方がずっと似合ってるよ」
綺麗な音に憧れた。
リンドバーグの、まるで人間の声みたいに優しい、歌う音を。ホルンとも違う、厚みのある音を。トランペットには出せない、力強い高音を。
全力で生み出す私の音を、ずっと鳴らしていたかった。
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