カラオケ店の集まり

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 報告云々以前に、すっかり仲間意識を覚えた人達がいなくなった淋しさで、何かもう一度会う手掛かりを得られないだろうかと、俺は店員さんに、この店に集まっていた集団のことを尋ねてみた。すると、それを口にするなり店員さんは顔色を変えた。 「また、出たんですか…」  そうつぶやいた後、店員さんははっとしたように口を噤んだが、その一言が気になり、俺はしつこく店員さんを問い詰めた。その結果店員さんは、この店にはちょくちょく幽霊の集団が現れて、一人客だけを狙って近づくという話を渋々語ってくれた。 「何が目的かで化けて出てきているのか判らないけど、こっちも困ってるんですよ。幽霊の出る店なんて噂が立ったら、店の評判ガタ落ちですから。くれぐれも、この話は口外しないで下さいよ」  念押しをされるまでもなく、誰にも話しませんと口にし、俺は店を後にした。  幽霊が出る目的が判らない。店員さんはそう言ったけど、俺には痛い程幽霊の…あの人達の気持ちが判る。  みんな音痴で苦労した。だから、同じ辛さを背負った人達の力になりたくて、あの人達は練習のために一人でカラオケに来る客の前に現れてくれていたのだ。  いつもみんなで励ましてくれた。みんなで、どう歌えばまともに聞こえるのか話し合い、悩んで褒め合って頑張った。そのおかげで、今の俺は他の人の前でも歌を歌うことができる。歌うことを楽しいと感じられるようになった。 「ありがとうございました!」  カラオケ店の入っているビルに向き直り、深々と頭を下げる。そんな俺の耳に、上手く歌えた時にあの人達がしてくれた、喝采の拍手の音が聞こえた。 カラオケ店の集まり…完
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