カラオケ店の集まり

1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

カラオケ店の集まり

 昔から音痴であることを自覚している。だから人前では歌いたくないのだが、大学のサークルがお祭りノリで、何かと歌うことを強要される。  断っても問題はないが、自分としても、一曲くらいまともに歌える歌があればもう少し状況がよくなるかもと考えるようになり、練習のために一人カラオケに通うことにした。  幸いにも、駅の近くのビルにお一人様歓迎のカラオケ店があったので、人に知られぬよう、バイトの帰りなどにちょこちょこと立ち寄っているのだが、そこで似たような境遇の人達と出会った。  出会いのきっかけは、練習中にトレイに行きたくなり、用を足して戻った時、うっかり違う部屋に足を踏み入れてしまったことだ。  すぐに部屋を出ようとしたのだが、何故か、一人で練習に来ている人ですよねと尋ねられ、どうしてバレはたのかを聞くと、そこに集まっている人は皆俺同様の音痴で、練習のために一人カラオケに来て、今回のような形で知り合った人達だと聞かされた。だから同類は判るのだ、とも。 「単独練習もいいですけど、客観的にこの辺りがおかしいと言ってくれる相手がいた方が上達しますよ」  そもそも、下手なを歌を人に聞かせるのが嫌での一人カラオケなのだが、同室の人達が俺の緊張をほぐすためにと、めいめい披露してくれた歌声は、俺が言うのも悪いが、かなり元の楽曲とかけ離れた歌になっていた。  この人達なら絶対俺を笑わないし、みんなで支え合って練習ができる。そう確信し、俺はこの音痴克服の会に頻繁に顔を出すようになった。そのかいあって、最初に覚えようとした曲のみならず、周りに、これなら歌えそうなのではと勧められた曲も何曲かまともに歌えるようになり、ついに、サークルの飲み会で練習の成果を披露した時は、周りから身に余る拍手喝采を頂いた。  それが嬉しくて、報告しようといつものカラオケ店に行ったのだが、以降、集まった人達の誰とも顔を合わせることがない。みんなあれだけ頻繁に店に出入りしていたのに、本当に誰一人姿を現さなくなってしまったのだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!