第一話 桐の花に魅せられた男

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十二歳で元服した光源氏は、左大臣家の娘「葵の上」と結婚。 しかし彼女は四歳年上、かつ山の如くプライドが高過ぎて打ち解けない。 宮中で彼はその容姿からあちこちの女性に可愛がられていた為、 「桐壺の更衣にそっくりの女御がいる」 そんな噂などすぐに耳に入るし、 その噂の藤壺を見るチャンスなど沢山あったであろう。 彼女を一目見た途端、 泣き母に面影を見出した思慕もあろうが、 何よりもその美しさにたちまち魅了されて 心を奪われてしまった。 つまり、一目で強烈に恋をしてしまったのである。 そう言っても過言ではないだろう。 後に藤壺は、光源氏の子を身籠ってしまう。 この許されない赤子は、帝の子として後に 「冷泉帝」となるのだ。 二人の罪の意識やそこに至る行為など、 匂わせる程度にしか作中に書かれていない。 まさに、読者に想像させる。 読み手は行間を読む! 純文学の真髄、 そして紫式部の類稀なる天才性がここに垣間見える。 そしてこの間も、そしてこれからも、 光源氏は数々の女性と浮名を流し続けるのである…。 ある時彼は熱病に罹る。 北山の評判の僧侶に加持祈祷を依頼しに訪れる。 そこで、 スズメが逃げてしまったと泣いている可愛らしい少女に出会う。 …どことなく、藤壺帝に似ている… そう感じた彼は、朝夕手元に置いて見ていたいものだ、 と感じる。 そして少女をさらい、二条院へと連れて行く。 自分好みの最高の女性に自ら手ほどきをして 教え込んでいく事になる…。 この時この少女は十歳程度。 後に若紫、紫の上と呼ばれるようになる。 光源氏、18歳、藤壺23歳。 手に摘みて いつしか見む むらさきの     根にかよひける 野辺の若草       …光源氏、初めて少女を見て詠んだ歌… 手に摘んで早く見てみたいものだ。 藤壺に縁のある、野の若草の紫を。
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