愛する者へのエンディングノート

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「本当に残念だ……かぁ」  誰もいない病室のベットの上で独り言ちる。思わず書いてしまった本音に、少し冷静になってグシャグシャと黒く塗りつぶした後、修正テープを使って白に染めた。  自分の家族構成を書いたノートをパタリと閉じ、貴重品や化粧道具が入っているカバンの奥底に沈める。  小さく息を吐いて病室に1つだけある大きな窓の外に目をやると、深緑に混じって黄や橙、紅といった色がちらほらと目立つ一際大きい山が飛び込んできた。今日は苗香も悠斗も、学校の遠足であの山を登っている。まだ小学2年生の悠斗は、なだらかな斜面からポッコリと膨らんでいる、あの紅が集まっている辺りが目的地。あそこには小さな広場があり、3年前に苗香が大層気に入って家族4人で登った覚えがある。先導する苗香が早く早くと急かすのに、悠斗はすぐにくたびれて桂馬の背中に負ぶさっていた。あれから3年で悠斗も随分と逞しくなり、今、山の中腹の広場を目指して登っている。  苗香は今年は小学5年生で、いよいよ山頂が目的地だ。昨日、桂馬と3人でお見舞いに来てくれた時にやっと山頂まで行けることをとても楽しみにしていた。病室からたまたま山が見えたから、今日は特等席で2人を応援しちゃうんだから。苗香、悠斗、頑張れ!
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