愛する者へのエンディングノート

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 1時間が経った頃、山の半分ほどの場所に青色の煙が見えた。悠斗達、2年生が全員無事に目的地に到達した合図だ。街の中心にあるこの山は、街にさえいればほとんどどこからでも見ることができる。今日行われている小学校の遠足、山登りは古くからの伝統行事であり、この街で生まれ育った大人が大半を占めるが故に学校側が数年前から実施している計らいだ。  働きながら、家で家事をしながら、自分の子供が無事に目的地に辿り着けたことを知らせてくれる。  さらに1時間半ほど経過したか、5年生と6年生が山の頂上に到達した桃色の煙が山頂に上がった。苗香と悠斗も無事に辿り着けたのだと分かって、全身の力が抜けるのを感じた。  最期に子供達の成長を見届けることが出来、嬉しさから涙が自然と頬を伝う。いよいよ、自分に残された時間はあと僅か。今朝方、カバンの奥底に仕舞ったノートを再び取り出すと、パラパラと後ろの方のページを開いた。  ”苗香、悠斗、よく頑張ったね! お母さん、ちゃんと見てたよ!  悠斗は幼稚園の時のリベンジ成功かな。  苗香はやっと念願が叶ったね。  2人とも、本当に成長したね。お母さん、嬉しいな!”  書き終えたところで、ポタポタと涙が紙面に落ちた。慌てて服の袖で拭うが、文字が少しぼやけてしまった。書き直すわけにもいかず、止め処なく流れる涙でこれ以上汚すわけにもいかず、ノートをカバンの底に沈めるように仕舞った。  毎日、事ある毎にカバンから取り出すノートだけど、決まってカバンの1番底に仕舞う。まだ、誰にも見付からないように。だって、これは私のエンディングノートだから。
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