愛する者へのエンディングノート

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 ステージ4の癌と診断された時は本当に目の前が真っ暗になった。何で自分が? 暫くは家事も手につかず、我が家から灯りが消えた。桂馬が仕事に家事に、何も言わずに毎日無理して、心労も重なって倒れたとき、ようやく私は気付いた。残された大切な時間、何もしなくていいのかって……そう思った。  それからは家事にも精を出し、癌が見付かる前の生活が戻ってきた。我が家の灯りも少しずつ元に戻っていった。  ただ、いよいよ入院を余儀なくされた現在に至るまで2人の子供には癌の事を伝えられていない。  まだまだ子供達の成長を見守っていたかった。それなのに、私にはもう残された未来は僅かしか無い。せめてもの自分の生きた証として、このエンディングノートを書き始めた。  家族構成や自分の死後の事、ノートに纏めていくことで次第に心が安らかになっていく。死を受け入れるなんて大それた事は未だに無理だ。だけど、向き合うところまではできた感じ。  それでも、やっぱり嫌だなぁ……  苗香、悠斗、突然いなくなるお母さんを許してね。桂馬、貴方が私の夫で良かった。不器用で、度真面目で、真っ直ぐで…………涙もろくて。苗香も悠斗もお父さんのそんな所が似てしまったから、きっと私のお葬式では3人揃って大泣きしてしまうのでしょうね。  人の平均と言われる寿命の半分ほどしか生きていないけど、私は貴方たちと過ごせて幸せでした。ありがとう。
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