ビルの足跡

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ビルの足跡

 建築系の仕事に携わっているのだが、その日は解体予定の廃ビルを見に行くことになっていた。  現場のビルは、人が使っていないのでさびれてこそいるが、特に老朽化が進んでいるということもない。むしろ少し手入れをすればまだまだ使えそうなビルだ。  とはいえ、持ち主が解体を希望している以上、その意向に逆らうつもりは毛頭ない。こちらはビルの様子を見て、解体の手順を決めるだけだ。  そのために同僚とビル内をあちこちうろついていたのだが、その途中、やけにくっきりとした靴の跡が残っていることに気がついた。  薄く埃が積もった廊下に、誰かが歩いた跡がはっきりと残っている。しかも足跡は片道分で、引き返した形跡はない。  どこからかホームレスなどが入り込んで、根城にしている可能性は充分ある。もしそうなら今後のためにも、すぐさま追い出してしまわないと。  行き場のないホームレスならまだしも、犯罪者などが潜んでいたら危害を加えられかねないので、同僚と二人、慎重に靴の跡を追いかけた。  廊下、階段、色んな所をうろつきながら、足跡は上へ上へと向かっている。そしてついに屋上へと出たところで消えた。  注意深く辺りを見るが誰もいない。屋上には、今上がってきた階段以外ここへ来られるような梯子や近接する建物もない。  足跡の主は一体どうやってこの場から離れたのか。まさか、自分の足跡を踏んで侵入した出入り口まで戻ったのか?  同僚と二人で首を傾げた瞬間、屋上の片隅の手すりが嫌な音を立てて軋んだ。  咄嗟にそちらに走り寄り、下を見たが何もない、けれど俺は、手すりの側で確かにその声を聞いた。
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