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海の中で目を閉じて、そのまま身を任せる。服が少し重いけれど、まあちょっと泳ぐだけだからいいだろう。
すぐにわたしの両脚は融けて一つになり、柔らかい青と銀の鱗でおおわれていく。
水の中で深く呼吸する。
次に目を開けたときには、わたしの半身は人の形をなくしていた。
半分人で、半分魚。
わたしのもうひとつの姿。
いびつで醜い異形だ。
自分もこんな姿をしているくせに、ケンタウルスを見て驚いたのは、自分以外にも『ヒトと違う存在』がいることを知らなかったからだ。
わたしが気づかないだけで、世界にはもっと、わたしと似たような存在がいるのかもしれない。
小百合にわたしの秘密を知られたのは、本当に偶然だった。
知られたくなかった。半分魚の醜い姿。
今までもそうだったように、きっと小百合も、わたしを化け物と罵って離れていってしまうと、そう思った。
しかし小百合は、きらきらと瞳を輝かせた。
『とっても綺麗な色の鱗ね。それに、すごく速く泳げそう!』
まるで子どもみたいな無邪気な声で、そう言った。ちなみに小百合は今でもカナヅチだ。
『……気持ち悪くないの』
『え? なんで?』
わたしの問いにきょとんとする友人を見て、なんだか笑い出したくなったのを覚えている。
自分でも心のどこかで否定していたわたしの半分を、小百合はあっさりと受け入れてくれた。
そんな優しい友人が、幸せになってくれることを、わたしは心から願うのだ。
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