わたしと親友とケンタウルス

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**  小百合が言ったように、恋人のケンタウルスことリギルは紳士的な男だった。  日本語はほとんどできないようだったが、小百合のフォローのおかげで、わたしのつたない英語力でもコミュニケーションをとることができた。  ふたりの出会いは森の中……ではなく、グラスゴーの街の中だったそうだ。小百合が道を訊こうと、彼に声をかけたのがはじまりらしい。……色々ツッコミたいことはあるが、まあいい。  故郷では小さなデザイン事務所に勤めていて、特技は早駆けとアーチェリーだそうだ。早駆け……は、まあいいとして、アーチェリー! やっぱりケンタウルスは弓矢が似合うよね。  彫刻のように整った容貌から、上半身ばかりに目がいってしまいがちだが、いやしかし、よくよく見れば下半身の馬の部分も素晴らしい。  青毛の胴体は艶やかな毛並み。筋肉のついた脚はしなやかで、駆ける姿は力強い。尻尾の毛もサラサラだ。なるほどポニーテール。  あんまり毛並みが美しいので、思わずなでたくなるが自制する。  ヘタしたら『友達の彼氏になれなれしくベタベタボディタッチする女』と同義に見られてしまう。そこにあるのは性的なニュアンスじゃなく動物愛でる的な意味しかないけれど。いやむしろそっちの方が失礼か?  けど、どんな意図であれ、人間でいったら友達の彼氏の太もも撫で回すみたいなもんだからな。とんだ痴女だよ。  もしかしたら頼めば触らせてくれる可能性はなきにしもあらずだが、わたしのこれは完全に彼を馬扱いしているので、今度こそ蹴り殺されるやもしれない。  ケンタウルスを馬扱いするのって、きっと失礼なことだよね……。  と、思っていたが、小百合は時々彼の背に乗って移動することがあるらしい。  いつだったか、何かの予約の時間に間に合わないとか言って、ひらりと彼の背に跨がり颯爽と駆けていったことがある。あのときはびっくりした。  後日聞いた話では、普段は乗ったりすることはないが、よっぽど急いでいるときはついまたがってしまうそうだ。それでも、やはりケンタウルスは人を背に乗せることは好まないらしいので、愛の力がなせる技なのだろう。  ちなみに小百合は大学時代、乗馬クラブのマドンナだったので、馬の扱いは慣れている。……あれ?  そういえば馬って、人を乗せている場合は軽車両扱いになるらしい。ケンタウルスはどうなんだろうか。
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