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誰もいない砂浜を歩く。
なんとなく、そのまま帰る気になれなかったから。酔い醒ましもかねて、歩いていた。いや、そんなに酔ってはいないけど。
夜の海。波の音と潮風は気持ちを落ち着かせる。
親友のことを考える。
はじめはどうなることかと思っていたが、今のところ小百合は幸せそうだ。これからもそうであってほしいと思う。
それに、親友の恋人がケンタウルスであることに対して、もとよりわたしはとやかくいえる立場ではないのだ。
そう、『わたしは』――。
「……」
なんだか無性に泳ぎたい気分だ。
適当な岩場を見つけ、誰もいないのを確認する。履いていたヒールを脱ぐと、わたしは服を着たまま海に飛び込んだ。
まだ知り合って間もない頃、碧の目のケンタウルスは言った。小百合は席を外していて、少しの間だけ二人きりになったときだった。
『――どうしてサユリが、僕に声をかけたのか不思議に思っていたんだけど、君がいたからだったんだね』
ゆったりとした英語で告げられた言葉を一瞬はかりかねたが、理解した瞬間、心臓がギュッと縮こまったような心地がした。
――なんで。どうして、
今のわたしは、どう見たって『人間』と同じ姿のはずなのに。
『……小百合から、聞いたの?』
『いいや。なんとなくわかっただけ。サユリからは、ウタコは高校のときからの親友だと。君との思い出話以外は何も聞いていないよ』
『そう……』
『……隠しているんだね。知っているのは、小百合だけ?』
『ええ。他は誰も知らないわ。わたしが――』
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