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間合い。
それは剣術を構成する上で、足捌きや瞬発力らと並ぶ重要な技術の一つだ。
間合いを誤り一瞬で勝敗が決まることは珍しくなく、今この場に置いても男にとっては注視しなければいけない。
しかしあろうことか男は、竜との距離が数歩程のものになっても、剣を下に構えていた。
"恐怖"そのものに怯えているわけではない。その証拠に、彼は足を止めることなく竜へと向かっていたのだから。
では、どうして普通なら間に合わない間合いに敵が入っているにも関わらず、剣を振るわないのか。
答えは簡単だ。
普通ではないからである。
「全速天撃」
その一振りは、音を置き去りにする。
ただ、恐ろしく速い。眼に見えない何てもんじゃない。"あたかも"元からそこにあったかのように、物理を容易く超越する。
結果、氷の竜は遅れて粉々に打ち砕かれ、男を中心に風の波が走った。霧散する氷は視界をうっすら白くする。
その奥から、声が聞こえた。
「一回待ってくれ。落ち着いて話をしよう。平和的にだ」
男は剣を振る。すると、霧状の氷は瞬く間に消え、離れた場所に青年が立っていた。
「無理だ。お前は魔王。俺は勇者。街を襲ったお前らを許しはしない」
眼鏡の奥の眼は、ギラギラと青年を睨んでいる。それは復讐の色をしていて、青年は溜め息をついた。
自分は、街など襲っていない。
青年は真実を告げたかったが、これ以上言っても火に油を注ぐだけだと口を閉じた。
だから、妥協して一言だけ添えた。
「俺は平和主義者だ。それだけは覚えておけ」
「言い残したことはそれだけか」
刹那、男ーー勇者は魔王との間合いを、先程と同じくらいに詰めた。これは勇者が一番得意としている間合いで、その距離約六十センチ。超接近戦である。
馴れていなければ、とても反応できない間合い。例え予測していたとしても、正確に対応するのは至難の技。
しかし、勇者が剣を振るう前に、魔王は灰色の魔方陣を展開していた。
何故か。それは、罠として事前に魔方陣を仕掛けていたからである。勇者が距離を、一定数詰めてきた場合に。
だが、恐るべきはそこではない。展開された魔方陣は、青年の背後に無数に散らばっている。
その数、"八十八"。
「《刀剣乱舞・八十八夜》」
八十八の魔方陣から放たれるのは、ナイフ、剣、刀、槍等々、多種多様の武器。そのどれもが勇者に刃を向け、襲いかかる。
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