第1章

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 説得するためではなかった。  説得されるためだった。 「本はなんで好きな人がいるかというと……」  彼の目はくりくりとしている。 「時代にも強いんだ。本の内容の移り変わりは、文化が移り変わることだと思う……」  彼の背は私と同じだった。 「やっぱり、そうだろ。本は紙の束のようで、全然そうじゃないんだ……集中して読んでごらん。不思議な体験をするんだ」  彼が……。  雪の顔がドアップだった。  何度も何度も雪に会いに古書塔へ赴いては。説得をされていた。  後ろには古書塔の古びた壁がある。  嗅ぎなれた古本屋独特の本の匂いは、私の一部になっていた。  彼は、私の体を覆うように壁に両手をついていた。まるで、私を逃がすまいとしているかのようだ。  彼の目を見つめながら私は震えながら口を開ける。 「電子書籍はどうなの?」 「あまり知らないんだ。読んだときがなくて……」  私と雪はいつもこうだった。  お互いに共鳴しようとすると、必ず衝突をする。  弱い衝突のはずだ。  けれど、何かが決定的に違っている。  ただ、私たちは本当の電子書籍と本の魅力を、お互いに知らないだけではないだろうか? 「それじゃあ、賭けてみよう。この町の人たちに、どっちが魅力的か比べてもらうんだ。今でもここには、たくさんの人たちが本を売りに来てくれる。その半分でも電子書籍がいいっていう人がいるなんて、有り得ないかも知れないけどね」  お互い好きなはずなのに、何故かすれ違う。  時代と文化。  古きものと新しきもの。  これからとこれからも。  古書塔が傾いた。  電子書籍が勝ったのだ。  町の人は便利な。そして、新しいものを選んだ。  半分どころではない。古書塔のお客が全員選んでしまった。    電子書籍を一軒一軒に広めた私にも責任があるのかも知れない。  町の人は古いものしか知らなかったのだろうか?  実際はこんなつもりじゃなかった。  古書塔にくるお客がいなくなり。  かわりに小熊は更に小さくなった。  食べ物もろくに食べずに、古書塔の店内を歩き回り。寂しそうな目で無くなった新刊コーナーを見つめていた。  雪は学校へ通いだし。  私も勉強の毎日を送った。  そんなある日。  雪が私の机の上に座った。  皮肉を言いたそうだったが、なんとか飲み込んでいた。 「なあ、このままでいいのか?」  私は俯いた。
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