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説得するためではなかった。
説得されるためだった。
「本はなんで好きな人がいるかというと……」
彼の目はくりくりとしている。
「時代にも強いんだ。本の内容の移り変わりは、文化が移り変わることだと思う……」
彼の背は私と同じだった。
「やっぱり、そうだろ。本は紙の束のようで、全然そうじゃないんだ……集中して読んでごらん。不思議な体験をするんだ」
彼が……。
雪の顔がドアップだった。
何度も何度も雪に会いに古書塔へ赴いては。説得をされていた。
後ろには古書塔の古びた壁がある。
嗅ぎなれた古本屋独特の本の匂いは、私の一部になっていた。
彼は、私の体を覆うように壁に両手をついていた。まるで、私を逃がすまいとしているかのようだ。
彼の目を見つめながら私は震えながら口を開ける。
「電子書籍はどうなの?」
「あまり知らないんだ。読んだときがなくて……」
私と雪はいつもこうだった。
お互いに共鳴しようとすると、必ず衝突をする。
弱い衝突のはずだ。
けれど、何かが決定的に違っている。
ただ、私たちは本当の電子書籍と本の魅力を、お互いに知らないだけではないだろうか?
「それじゃあ、賭けてみよう。この町の人たちに、どっちが魅力的か比べてもらうんだ。今でもここには、たくさんの人たちが本を売りに来てくれる。その半分でも電子書籍がいいっていう人がいるなんて、有り得ないかも知れないけどね」
お互い好きなはずなのに、何故かすれ違う。
時代と文化。
古きものと新しきもの。
これからとこれからも。
古書塔が傾いた。
電子書籍が勝ったのだ。
町の人は便利な。そして、新しいものを選んだ。
半分どころではない。古書塔のお客が全員選んでしまった。
電子書籍を一軒一軒に広めた私にも責任があるのかも知れない。
町の人は古いものしか知らなかったのだろうか?
実際はこんなつもりじゃなかった。
古書塔にくるお客がいなくなり。
かわりに小熊は更に小さくなった。
食べ物もろくに食べずに、古書塔の店内を歩き回り。寂しそうな目で無くなった新刊コーナーを見つめていた。
雪は学校へ通いだし。
私も勉強の毎日を送った。
そんなある日。
雪が私の机の上に座った。
皮肉を言いたそうだったが、なんとか飲み込んでいた。
「なあ、このままでいいのか?」
私は俯いた。
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