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と、彦星がそんなことを考えていると、織姫がもう一度手を合わせて目を瞑りました。
「今度は何だよ」
気持ちのチャンネルを入れ替えるように彦星が尋ねると、織姫は目をつむったまま口を開きます。
「2つ目のお願いしてるの」
七夕って2つ以上お願いしても良かったっけ?と彦星は考えようとしましたが、すぐにやめました。
「欲張りだな。何お願いしたんだ?」
彦星が尋ねると、織姫はゆっくりと目を開けました。そして人差し指を立て、自分の鼻の部分に持ってくると
「これはないしょ」
イタズラっぽい笑みを浮かべながら、そう答えました。
「何でだよ」
彦星は、別に無理に聞き出すつもりはありませんでした。話の流れ上なんとなくそう聞き返したにすぎませんでした。
しかし、次の瞬間ひどく後悔しました。織姫が浮かべた表情は何とも寂しげだったからです。少なくとも自分の大切な人にそんな表情をされても嬉しい人など一人もいないだろうと断言できるものでした。
「叶わない願いは口に出したって仕方ないでしょ?」
彦星にはわかりました。織姫が星に向かって何をお願いしたのかが。
だけど、それを確認することはしませんでした。その願いは彦星にとっても身が切り裂かれそうになるくらい切ないものだったからです。
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