花埋め

5/11
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 学校に行って、会社に入って、結婚をして、子どもを育てて。それなりに大変なことはあったが、俺は自分の人生に満足していると思っていた。  だから。  息子が「結婚をしたい」と言って達郎の娘を連れて来た時、ぼちぼち老い支度もしなといけないかな、などと思っていた。  だけど。  両家の顔合わせの時に、達郎に出会って、そんな考えは吹っ飛んだ。  欲しい。  一目見て、そう思った。  達郎は、俺より一つ年上だったから、当時でも五十代になろうとしていたおっさんだった。  でも、そんなのは関係なかった。  俺は生まれて初めて、見かけとか年齢とか立場とか……そんなものが一瞬で飛んでしまう感情(もの)があるってことを知った。  ただ。当時の俺にも、理性と言うものはあった。  相手は息子の結婚相手の父親で、互いに家庭があって、と縛るものはてんこ盛りだったし、どう見ても普通の男に見えた達郎に自分の思いを告白しても、ドン引きされるだろう、と思っていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!