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 シアターが三つしかないような小さな映画館でも、平均して一日に十から十五回は上映がある。それを二人の技師で回している。たくさん映画が観れるんじゃないかと思ってこの仕事を始めたのに、まともに観られるのは一日最後の一本だけだ。しかも映写室のボリュームは消してしまうから、完全に無声映画になる。外国語の映画が大半なおかげで字幕があるのだけは救いだと思う、音楽も俳優の声もどんなものかは分からないけれど、活動写真ってこんな感じだったんだろうか。たまに考える。  最終の上映が終わる二十二時半。大人のどろどろとした本音と性の赤裸々な映画は無音のままエンドロールに入った。まあまあ遅い時間の上映だけど、平日だと逆にこのくらいの時間のほうが混む。それに今日はレディースデーの水曜だ。黒い背景に白い文字でつらつらとスタッフの名前が流れていくのを見ながら、静かに片付ける準備を始める。  白い文字が途切れる。黒い背景に巻き取られて一つ浮かんだ配給会社のロゴもふっと消えた。 『字幕:菅原巧』     
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