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 最後にその名前がふっと出て消えた。何度か見たことがある名前だ。この映画は何語だったっけ。イタリア語か。すごいな、百分のあんだけ会話の多い映画のイタリア語を日本語にするんだもんな。イタリア語できるんだな。  ・・・・・・いや、当たり前だろ。きっとこれでご飯食べてるんだから。  プログラム通りに明るくなったシアターからぞろぞろとお客さんが出て行く。三シアターぶんの最終上映のフィルムと映写機の手入れをして、それから諸々の後片付けをしているうちにあっという間に日付が変わる。新しい人入れたいですねという支配人との会話はいつまでも願望の域を出ない。 「佐伯くん辞めたらもうマジでやばいよね」 「じゃあ正社員にしてくださいよ」 「検討しとく」 「言いましたね」  もうしばらくはこっちも検討の域を出ないんだろうな。学生だった頃から働いているものの、未だに時給いくらの待遇のままだ。明日休みでしょ、飲み行かない、と夫婦仲があまりよくないらしい支配人の誘いは終電を理由に断った。     
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