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 酔っ払いと社会の歯車をめいっぱい口に詰めた最終電車が最寄り駅に着く頃には深夜一時を回っていて、駅前にはコンビニとレンタルビデオ店の灯りしかない。駅から歩いて十分、帰り着いた玄関には朝返却するつもりだったDVDが置きっぱなしになっていた。そのまま靴を脱がずに外に出る。明日の昼までに返せば延滞料は取られない、けど明日は休みで、わざわざそのために起きて着替えて外に出て、は面倒くさい。火薬まみれのハリウッド映画に旧作のアダルトビデオで六百円も取られるのは癪だ。・・・・・・好きな映画だったらいいのかと言われれば、それは頷けないけれど。  観たかった映画が準新作になっていたので、返却のついでにそれを借りる。俳優の声と音楽以外は知っている作品を見つけてそれも手に取る。うちで前にやってたやつかな、イタリア語の映画だ、とパッケージを見て何かに引っかかる。どうしてだろう。話だけなら空で言えるほど知ってるのに。 行かないつもりののれんの向こうで個人的におなじみの旧作を借りて、コンビニでビールとチー鱈を買って帰った。 ***  金曜は早番だったのに後輩がミスをして残業になった。いつも淡々としている彼が珍しく殊勝な顔をしてすみませんでしたとコーヒーを奢ってくれたので、残っているついでにいっちょやるかと明日のプログラムの確認を済ませてから帰ることにした。残業代は出ないけどどうせ帰ってもすることはないし、明日はシリーズものの最新作が公開になる記念に過去作のオールナイト一挙上映があるのだ。監督や主演俳優の挨拶もあって完売御礼、前日の自主残業の効果もあって万事つつがなく終わった。 「おつかれおつかれ」 「お疲れ様です」 「眠そうだね」 「はい、眠いっす」 「明日遅番だっけ?」 「代わってもらって休みって話しませんでしたっけ」     
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