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時計を見るとそこそこの時間電車に揺られていたらしく、日曜日の駅はそれなりに人が集まりはじめていた。帰って寝たらそれだけで休みが終わりそうだ。もったいないことをしたな。
一番早い経路で帰ろうと取り出したスマホは充電が切れていたのでもう、嫌だ、最悪だ。
「あの」
「・・・・・・は、はい?」
声をかけられたのが自分だと気がついたのはリュックをはたかれてからだった。頭のてっぺんが少し黒くなった明るい茶髪の男が立っていた。目線は同じくらいだけど彫りの深い顔が引くほど整っている。いかにも徹夜明けですと言わんばかりの顔色の悪さは俺だって同じだろうけど、それにしたって。謎のイケメンに声をかけられて固まる俺に更に続ける。
「朝飯食ってきません?」
「・・・・・・え?」
「俺、これ前にやらかして」
「?ああ、」
さっき同じ電車で寝てて起こされてた人か、と脳が追っつき理解する。
「前んとき、知らないおっちゃんに朝飯奢ってもらって、次やらかしたら兄ちゃんが助けてやれよ、って言われてて」
だからどうすか、朝飯。
劇場を出てきたときのしじみみたいな支配人の目を思い出した。寝起きだなあ、朝だなあ、と鏡を見るように思う。よく分からない申し出は、飲みの席の話の種くらいにはなるかなと思ってとりあえず頷いた。悪い人ではなさそうだし。情けは人のためならず、はきっとこういうことなんだろう。
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