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 家を通り過ぎたんだから当然定期圏外で、残高不足で改札機に阻まれた俺を見てすぐ後ろのその人は笑った。寝不足なのでいくぶん腹を立てた束の間、目の前でまったく同じ引っかかり方をしたので溜飲が下がった。  賑わい始めた小江戸の駅前を歩く背中についていくと、おおよそ飲食店ではなさそうな建物に入っていく。三時間パック二人分、と謎のオーダーをして二千円をカウンターに叩きつけると、カゴと鍵を渡される。白いプレートには数字が彫りつけてあって、インクはほとんどかすれている。 「・・・・・・銭湯?」 「ここ朝飯が出るんだ」  自販でパンツ売ってる。  指された方向を見ると牛乳の横に日用品の自販機がある。古い内装の中でそれだけが妙に浮いていておかしかった。安すぎる価格設定のボタンを恐る恐る押すと、圧縮された布が入った袋が落ちてくる。俺のは普通の青だったけど彼のはだいぶ攻めた柄で、まあこういうこともあるある、と笑っていた。ガチャガチャみたいなものらしい。  初対面の人と並んで服を脱ぐのは正直かなり戸惑ったのだけど、俺が躊躇っているうちにその人はさっさと脱いで全裸で振り返る。何してんの、と普通の顔で。 「恥ずかしい人?」 「・・・・・・人並みには」 「・・・・・・ふうん」 「ぎゃあ」 「普通じゃん」     
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