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2025年 初夏 六花 1
白川町記念図書館は、街全体を見下ろすかたちで建っている。
下から徒歩でここまで来るのはたいへんに苦労する。傾斜のきついくねくねとした細道を三十分以上歩かねばならないのだから、到着する頃にはすっかりへとへとになってしまう。だから、利用者は大抵バスに乗ってやって来る。利用者用の駐車場もないので、途中まで車で来ても坂のふもとに車を置き、そうしてバスで図書館まで行くのである。
けれども、不便さにもかかわらずこの図書館はけっして廃れない。どの時間帯どの曜日でも人は一定数いるし、週に何度も通う利用者も少なくない。それだけの魅力がこの図書館にはあるのである。
どっしりとした煉瓦造りに壁はミントとクリームのツートーンカラー。そこに立派な瓦屋根が妙なバランスでマッチしている。三階まである館内の大閲覧室も開放感のある吹き抜けで──残念ながらそこから下がるシャンデリアは安全性のためあっさりとしたデザインのものに変えられてしまったらしいけれど──それでも充分に来る者を魅了する美しさだ。
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