2025年 晩秋 六花 4

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美貴自身が言ったように、多分六花には子育てに意見する資格などなかったのだろう。きっと的外れで、生意気で、理想主義。けれど実際は六花とは逆に碌に深く考えもせず親になる人は世の中にごまんといて、多分そういう人の方が圧倒的に多くて、六花はそれが悔しい。きっと的外れなのだろうけれど。美貴の苦しい立場をもっと思い遣るべきだったのだろうけれど。 ──難しい子でねえ。 その言葉は、六花自身も子供時代母親によく言われた言葉だった。母が周りにそう言う時いつも困ったものだった。母の横で六花は一体どんな顔をして立っていれば良かったのだろう。どうしたら難しい子でなくなるのだろう。自分が“難しい子”であるのが悲しくて、いつか見捨てられてしまうのが怖かった。 そうだ。六花は家族が恐ろしかったのだ。 そして家族を諦めた。成長してゆくにつれいつしか怒りに変わった。傷付きだけはそのまま抱えて。 「果音ちゃん」 加減が分からず、蹲み込んだ六花は果音の頭を恐る恐る撫ぜた。北風に晒された彼女の髪は重く乾いた冷たさだった。 結局、あの人が果音にとって一番良いお母さん。六花よりずっと良いお母さん。種類の異なる栄養成分のように、ある栄養は他人から受け取れても、母親からしか受け取れない栄養素があるのだ。六花にあの人の代わりを務めることなど出来はしない。 子供というのはなんて不幸なんだと思う。自分の身も心も上手く守ることができない。自分の環境を変えることもほとんど出来ない。ただじっと、置かれた環境にひたすら慣れて耐えるしかない。六花のように逃げることも叶わない。     
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